
「眼差しの・・・」
亡くなった母親への切ない想いを絞り出すように少年が口にしたその一節で始まる、僅か1時間半のうたかたの夢のような舞台「身毒丸」を13年ぶりに体験してきました。
寺山戯曲の継承者の一人である故・岸田理生の手によって再度生み出されたこの作品を初めて観たのは、1995年正月のシアターコクーンで上演された蜷川幸雄+武田真治版「身毒丸」でした。
いわゆる寺山演劇と称される作品に触れるには私はあまりにも幼く、渋谷・並木橋に建っていた天井桟敷で夜毎繰り広げられていた寺山ワールドは、私にとって学生運動の古いフィルム同様、過去の若者文化の歴史の一部でしかありませんでした。
実際に私が観た寺山演劇は、彼の死後に枝分かれした彼の継承者たちが彼へのオマージュのように作り上げた作品であり、唯一彼の死に間に合った作品は残念ながら演劇ではなく、10代だった私が背伸びして観た彼の最期の監督作品である映画「さらば箱船」だけでした。
そして私が結果的に嵌った寺山ワールドは、数々の実験映画を含む映画作品と幻想写真館と称した写真作品でした。
そこで繰り広げられる世界は、子供の頃夕日が差し込む部屋でうたた寝しながら観た怖い夢のような、日常に潜む覗いてはいけないアンダーグラウンドの世界。
「身毒丸」にも登場する乳房を露わにした女力士や、襦袢姿の白塗り男を13年前に初めて観た時に脳裏に浮かんだのは、寺山の手による彩色写真の中の異形の住人たちでした。
13年前の初演時の際に主演だった武田真治は当時23歳。
中性的なイメージで少年っぽさが残る当時の武田くんは、寺山ワールドの住人たちの中にもしっくり溶け込み、寺山演劇の継承者に名を残したとさえ感じました。
しかしその二年後再演が決定したこの作品の舞台に彼の姿は無く、代わりに選ばれたのは14歳中学生だった藤原君でした。
初演の武田身毒丸にそれなりに満足していた私は、敢えて素人の中学生(失礼!)が演じる身毒丸を観て記憶の上書きをする必要はないなどと思った事を、後々どれほど後悔した事か!!
その失態はその後藤原君19歳の時に再演された「身毒丸ファイナル」をもスルーをする事で更に増幅し、2004年の「新選組!」で私が彼の存在を認識した時はじめて、それは「後悔」の二文字に変わりました。
なので私が知っている藤原版身毒丸は、友人の古いビデオテープに残っていた97年藤原版初演時のTVドキュメンタリー「身毒丸と呼ばれた少年」と、「身毒丸ファイナル」のDVDの中の藤原身毒丸のみで、生身の身毒丸に触れるのは今回が初めてでした。
そして私がようやく生身の身毒丸に会えたのは7日夜のさいたま初日公演でした。
※私の長い、長い前振りにお付き合い下さり有難うございました(笑)
劇場は13年前とは違う藤原身毒丸が産み落とされた聖地、彩の国さいたま芸術劇場。
入場の長い列を成す中には、初演から全てを観ている人も多くいるのだろうなと思いながら最後尾についた途端に入場が始まり、瞬く間に会場内へ。
直ぐさま物販の列に並びパンフを求めました。
今回のパンフはいつもは別売りだったトートバック付き(1800円)で、赤と青の二色のトートバックから選ぶ事が出来るという優れものでしたが、青も発色が鮮やかで綺麗なので迷う所ですが、私を含むかなりの人が「赤」のトートの方を選択していたようでした。
その横で藤原君の最新映画作品「カメレオン」の前売りも売っていたのですが、それはまた次回のお楽しみに残し、いそいそと席に着きました。
今回の席は舞台上手側G列で、予めファイナルのDVDで身毒丸の動線を知っているだけにちょっとドキドキ・・・、開演までの僅かな時間でパンフにざっと目を通すと、後ろの方に載っている稽古場写真の藤原君が目に留まりました。
それはドラマの為に短く髪を切った最近の藤原君が、身毒丸の白いシャツを羽織り、芝居の中盤に出てくるカミキリムシの入った硝子瓶を翳している写真でした。
先程ロビーでみた「カメレオン」のポスターに写る虚無的表情の(でも最高に素敵です!必見!)アウトローな藤原君と、とても同じ人間とは思えない程の無垢な表情を浮かべるその写真にたちまち目は釘付けになりました。
この写真が過去の舞台写真であれば大して驚きはしないのですが、それが今回の稽古場での一枚だという事だけで、否が応でもこれから始まる舞台への期待は更に膨らんで行きました。
きっと役者の身体の中には、過去に演じたそれぞれの役のスイッチが演じた役の数だけ備わっていて、その役を演じる時にスイッチがオンに切り替わるんだろうなぁと思う事がありますが、藤原君の中にある身毒丸のスイッチはオンに切り替わった時に放つ電圧が、他のスイッチよりも確実に大きいんだろうな・・なんて事を思いながら他の稽古場写真に目をやると、沐浴をする場面の一枚に写る頼りなげな細い首や、食卓の横で独り膝を抱える時の寂しげに俯く視線が目に飛び込んできて、その少年然とした姿から目を離す事が出来ませんでした。
これだけでも満足・・などと思っていると、舞台上部から金属摩擦の火花が浮かび上がり舞台の幕も上がりました。
薄暗がりの中、仮面売りの屋台引きや女郎たちの中を不安げに通り抜け身毒丸が姿を現せ、「眼差しの・・」という冒頭の一節に繋がって行くのです。
・・・と、久々の舞台レビューに舞い上がったのか、余りにダラダラと長い事に気付いたので、ココでひとまず終了とさせて頂きます。
次はもう少し舞台の中身に触れたいと思いますので、がんばります。
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